2013年04月号 対話で進むライブ・プレゼン
最新手ぶら生活
少し前からずっと手ぶらで生活している。カバンを持つのは週1回ほど。それ以外はどこに行くのも手ぶらだ。ポケットにカードケース、カギ、そしてiPhone5を入れるのみ。両手が自由で気分もいい。
十数年間、肌身離さず持ち歩いたマックだが、最近は持ち出す機会がめっきり減った。自宅と研究室にマックを置き、その内容は常時、Dropbox、Evernote、そしてiCloudで同期されているからだ。
研究室にいるときに自宅のマックにある古いファイルが必要になっても心配ない。あらかじめマックの「どこでも My Mac」機能をオンにしてあるので、Finderから自宅のマックを画面共有して操作し、そのファイルをDropboxフォルダーに入れればいい。ほどなく、研究室のマックのDropboxフォルダーに現れる。
屋外で仕事をするときは、iPad miniを持って行く。それとて冬場ならコートのポケットに収まる。7・9インチのiPad miniは手ぶら派の味方なのだ。
原稿執筆、メッセージやメールの送受信、資料収集、ブログ作成、スケジューリング、表計算、プレゼン資料作成──。iPad miniさえあればほぼすべての業務をこなせる。私の日常でiPadで作業できないことといったら、写真のRAWファイルを現像することくらいではなかろうか。
いまこの原稿もiPad miniで書いている。ATOK Padでスタイラスペンの「Su-Pen」を使ってフリック入力しているのだ。この組み合わせならどんな長文もiPad miniで書ける気がする。ATOK Padは入力に対するレスポンスが快速なので、Su-Penによる「筆記」のダイレクト感が高いのだ。変換の賢さは折り紙付きである。
先日、京橋にある「Tokyo Institute of Photography」という写真ファンが集まる空間で、「著作権の話をしよう・基礎編」という講座を実施した。その日も私はiPad miniをコートのポケットに入れ、手ぶらで会場に赴いた。プロジェクターへの表示はiPad miniでOK。本連載1月号の「iPadでライブ・プレゼン」で書いた方法を用いたのだ。
幸い講座の評判はすこぶるよかった。内容もさることながら、ライブ・プレゼンのスタイルにみなさん興味津々。今回ばかりではなく、どこでこれを行ってもウケがいい。プロジェクターとのつなぎ方や操作の仕組みについて、たびたび質問を受ける。そこで本稿では、ライブ・プレゼンの手法を、その講座に沿ってお伝えしよう。
ライブ・プレゼン、実践編
プレゼンというとKeynoteやPowerPointの画面を映しながら行うのが当然のように思われている。スライドのことをプレゼンと呼んでしまう人がいるほど、両者は不可分なのかもしれない。
しかし、「プレゼンテーション」とは「現在化」あるいは「顕在化」である。「相手の目の前で現に伝える」ことだ。必ずしもスライドが必須というわけではない。
目の前の人に物事を伝える最も基本的な手段は、口頭の言語表現だ。つまりプレゼンは本来、しゃべりが主、スライドは従なのだ。画像はあくまでも口頭表現の補完、あるいは補助にすぎない。
だから私は、少なくとも大学の講義では一切、スライドを用いない。話を聞くだけで完全に理解できる講義をしたいからだ。
スライドに使われるアプリの名称から考えても、「keynote」とは「主音」あるいは「主旨」を意味するし、「PowerPoint」を直訳すれば「力点」である。話す内容の全体をだらだら書くための道具ではないのだ。
講義や講座でスライドを使わない理由はもうひとつある。スライドが、あらかじめストーリーを作った紙芝居だからだ。講義は学生や聴衆との対話で展開していくものだから、あらかじめストーリーを用意できない。いや、用意してはいけない。聴衆のニーズや興味に応じて臨機応変に内容を構成していくのが、「ライブ」な講義なのだ。だから教室には、その場で描ける黒板やホワイトボードがベストなのである。
一方、スライドを映しながら話すのが通例となった現在、大学外で依頼を受けた講義や講座では、プロジェクターを使うことが期待される。そこで、大学の教室で行っている講義のライブ感を、プロジェクターで映した画面を用いて実現したい、とかねがね思っていた。従来マックではなかなか実現できなかったその願いが、iPadと手描きメモアプリの「Note Anytime」で、とうとうかなったのだ。それが「ライブ・プレゼン」である。
準備としては、プロジェクターにHDMIケーブルでApple TVをつなぎ、無線LANネットワークに接続しておくところまでご用意いただけるよう、あらかじめ主催者に依頼する。もしプロジェクターにHDMI端子がなければ、VGAとの変換器を介すればいい。
そこまで会場の準備が整えば、私が持参するのはiPad miniだけ。現地の無線LANネットワークにiPad miniを接続したら、ホームボタンを2回押し、アプリの列を右にスワイプして、表示先を選ぶ「AirPlay」ボタンをタップ。メニューから「Apple TV」を選択して「ミラーリング」をオンにすれば、iPad miniの画面が、ワイヤレスでそのままプロジェクターに映し出される。
講座の途中でiPad miniがスリープしないように、設定→一般で「自動ロック」を「しない」設定。また念のため、起動中のアプリをすべて終了すれば万全だ。通知センターもすべて切っておくほうがいい。
使用したアプリは3つ。Safari、「模範六法2012」、そしてメインはNote Anytimeである。当日、会場に行く前にスターバックスで紅茶を飲みながら、映写する内容をこのメモアプリで作成した。横置きの紙1枚。そこにすべてを書き込む。
Note Anytimeは、どんなに拡大しても滑らかな曲線で表示されるので、資料を1枚に凝縮できる。そうすると聴衆が全体を俯瞰でき、話に必要な部分はズームアップして見せればいい。
模範六法やSafariで条文を表示したのち、その条文を編集しておいたNote Anytimeに表示を切り替える。条文に使われている文言の相互関係を示す矢印などを直接、Note AnytimeにSu-Penで書き込んでいく。黒板に描くのと同様、聴衆の眼前でリアルタイムに画面の情報を加工するのだ。そのライブ感を聴衆と共有したいのである。
なお、別の講演では会場にApple TVがなかった。そこで、iOS機器の画面をマックに映せる「Reflector」をインストールしたMacBook Proを持参。MacBook ProにUSB接続したイーモバイルの無線LANルーターに、iPad miniを無線LANで接続した。いくつかつなぎ方を変えて実験した結果、この接続方法が最も滑らかな画面の動きだったからだ。
Note AnytimeとiPad miniは、目下、ベストなライブ・プレゼン環境である。